神様に捧げるワイン
左京
今までの話を聞いても十分真輝君は仕事をしてると思うんだけど、あらためて、仕事ってなんだろう。
手塚
働くとか仕事ってことを考えた時に、まずその前に“生きる”っていうことがあるわけでしょ。そのために食べなきゃいけない。ご飯を食べなきゃいけないから、昔の人たちは自分たちで狩りをしたり、畑を耕したりしたわけだよね。それはまず一番わかりやすい“働く”じゃない?
この間フランス行った時に聞いたんだけど、一番最初にドンペリを作った人は修道院のお坊さんをしていたドンペリさんで、その人が何でドンペリを作ったかというとね、世界で一番美味しいワインをつくって神様に捧げようと思ってつくったんだって。
神様に捧げるために世界で一番美味しいワインをつくろうと思ったのがきっかけでその結果ドンペリができた。
左京
おもしろい。
手塚
でしょ? 結局は仕事って誰かのために何かをすること。最初は自分のために何かをすることが仕事だったんだけど、今度は神様のために何かをすることが結果的には仕事になっちゃう。それで、収益を上げるわけだから。
仕事っていうのは自分のためじゃなくて、過剰な収入を得ること。それはつまり、人のためにやることなんだよね。そしてそれをみんながお金を払って買う。
左京
そうだとすると、真輝君の仕事は来てるお客さんに楽しんでもらっていい時間を過ごしてもらって、ありがとうってお金を払ってもらう。そのお客さんのためにやってるってことでしょ?
手塚
そうだね。でも今の俺の役割は、お客さんに楽しんでもらうっていうよりは……、結果的にはそこからお金が入ってくるけど、今の俺がやるべきことってうのは、そういう場所を作っている人間を育てることなのかな。今の俺がやろうって思ってることは、商店の入り口、八百屋さんの入り口で「いらっしゃい、いらっしゃい」って言ってるところから、一歩中に入った感じだね。
でも結局は一緒だけどね。お店を大きくしたいっていうことが目的だから。単純にお店を大きくしたいって言ったら、利益を求めることに聞こえちゃうかもしれないけど、そこには自分自身のモチベーションを上げる理由がそれぞれあるんだと思うんだよね。大金持ちになりたい、歌舞伎町のキングになりたい、俺の場合はたぶん、さっきから言っているように自分自身が成長すること、今やろうと思ってることをやり切った時の自分に出会うこと。
だから、ひょっとしたら、俺はこんなものつくったんだっていうのをこいつらに売らしたらどうなんだろう、やったら楽しいのかもしれない。こいつらはそれに伴って、いろんな面で成長してくれて、そしたら自分でお店を持って俺の店とは違うところでお店をやりたいって言うかもしれないしね。

この先どういうふうに仕事をしていきたいかって考えたときに、たぶん街をつくりたいんだよね。俺は。
街ってさ、例えば動物病院があったり、お医者さんがあったり、パスタ屋さんがあったり、蕎麦屋さんがあったり、それぞれ最低限必要な役割のものは絶対あるんだよね。それが大きいか小さいかだけの差で。だけど、全体でひとつの街として見て考えたときに、それぞれの役割をもったそれぞれのものがあるじゃない。
だから、街っていうのは本当の街じゃなくて、なんとなくわかる? それぞれの役割を持ったものが、自分ではどうにもできない人間たちが集まってきているなかで、俺たちはこんな街を作ったんだっていうのが作りたいのかもしれない。ダメな人間たちからはいあがってきて。俺だってもともとホストなわけだし、これからもホストで生きてこうって思ってるのは、やっぱりそういう若い人間たちと会ったからだし。俺はもうホストじゃない、経営者だって言っちゃったら、なんか嫌なんだよね。そんな俺たちでも街をつくれるんだよって、だから要は言ってみれば人生の敗者復活戦なわけだよ。
きっと誰もが敗者復活戦なんだろうけどね。勝ち進んだ人間なんて世の中で一人もいないと思うんだよ。どっかで挫折してどっかでダメになるわけじゃん。だから今は敗者復活戦をまとめてみんなでやろうよっていう感覚はあるかもしれない。それが街っていう形でできたら面白いし、理想なのかなっていうのはある。

左京
「街」のなかにあるいろんな役割っていうのは、今お店にいる若いスタッフがそれぞれのやりたいことで、それはバラバラはわけだけど、ホストをこのまま続けていく人もいれば、何か自分の店を持つ人もいる、そういうふうに自分のやりたい役割みたいなものを見つけるきっかけをつくってあげたいし、必要だったら独立していけばいい。そのなかでそれぞれが機能していくっていうか、自分の役割をちゃんとやって生きていく状態が理想。
手塚
そう、一回ホストっていうフィルターを通ってからその役割になるっていうのはすごくおもしろいかなって。
左京
学校みたいだね。手塚学校だ。
手塚
でも、卒業するには、その学校で良い成績を残せないと俺は嫌なの。学校にいる時に残せない人間を外に出すっていうのはね。学校で良い成績残せなくても、それ相応の才能ある人間にこういう学校が良いと思うよ、おまえはこういう道が良いと思うよって言ってやることが本当の理想かもしれない。
だけど、まだその段階になるためには、俺たちの学校自体の資金力だったりエネルギーがまだ足りないよね。その部分が一番の悩みかもしれない。だから早くこの学校をでかくしたい。この学校を早くでかくしちゃえば、もっともっと教材変えたいってなれば教材買えばいい話だし、学校でかくしたいから建築やれよっていったら建築やらせればいい話だし。そういうことを考えると今をがんばれるかな。
左京
それは単純に資金力とかだけじゃなくて一回手塚道場みたいなところで、自分の役割に対峙した時に大事になってくることを伝えていって欲しいっていうか、やれるようになって欲しい。そこが手塚学校のすごい大事なコアだと思う。
手塚
そうだね。
左京
別に資金力があるからって、手塚道場に来た人にお前にはこれが向いてるんじゃないの? って言ってすぐに辞めさせるってことじゃないと思う。やっぱり学校はくぐんなきゃいけないんじゃないの? じゃないと出さないよ、真輝君は。「よし、合格!」って言って、「街に出てよし」って言ってからじゃないと嫌でしょ?
手塚
嫌だね。それはあるね。でも、だから楽しくなったんじゃないかな。多少、未来が見えてくるかな。
(続きます!)

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